東京地方裁判所 昭和32年(特わ)282号 判決 1958年11月24日
被告人 ヘンリー・シモジマ 外四名
主文
被告人ヘンリー・シモジマを懲役一年及び罰金五〇万円に、同山岸勝満を懲役八月及び罰金三〇万円に、同大橋治を懲役六月及び罰金三〇万円に、同シゲオ・カトウを懲役六月及び罰金三〇万円に、同谷川進三を懲役八月及び罰金五〇万円に処する。
但し懲役刑については全被告人に対し三年間右刑の執行を猶予する。
被告人等が右罰金を完納することが出来ない時は金二千円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。
被告人谷川進三から金九九万二千円を追徴する。
訴訟費用中証人小池善一郎、森八郎、木谷きくい、中川源一郎に支給した分は谷川進三、シゲオ・カトウ、ヘンリー・シモジマの負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
第一、被告人山岸勝満、同大橋治は昭和三〇年七月頃共謀の上無為替輸入を仮装して米国から乾ブドウ、乾アンズを輸入して利益を得ることを企て、その手段として山岸の知人であるハワイ在住のヘンリー・テツヲ・オサノに依頼して東京都社会福祉協議会(以下都社協と略称する)宛に中古衣料、ミルク、果物一〇〇〇ケースの寄贈をする旨の文書を作成せしめ、他面都社協に交渉して右物資の寄贈を受けることの承諾を得た上、都社協を通じて通産省から右物資の無為替輸入の承認を得、次いで被告人ヘンリー・シモジマに対し昭和三一年二月頃右の様に無為替を仮装して輸入するものであることの情を打明けて、米国に於ける乾ブドウ、乾アンズの買付方を依頼したところ、同人はこれを引受け、結局三名共謀の上、ヘンリー・シモジマの知人ロイ・オクノことオクノ・ノボルが当時日本に居住していたので更に同人に対してヘンリー・シモジマを通じ米国にある同国産の乾ブドウ九万ポンド(五〇〇ケース)乾アンズ一万八千ポンド(一〇〇ケース)の取得方を依頼し、これ等の取得に関連して昭和三一年二月二〇日頃、同年三月二二日頃及び同年四月二日頃の三回に亘り、法定の除外事由もないのに、居住者たるオクノ・ノボルに対し東京都千代田区有楽町一丁目一〇番地三信ビル内コーヒー店に於て合計約一〇八八万円を支払い、以て外国にある財産の取得に関連して居住者に対する支払をし
第二、被告人ヘンリー・シモジマ、同シゲオ・カトウは昭和三〇年五月頃米国の慈善団体からの寄贈物資の受入に名を借りて無為替でパインアップル・ジュースを輸入して利益を得ることを企て、ロスアンゼルス友の会から京都府遺族会宛の寄贈物資につき通産省の無為替輸入承認を得た上、他面米国在住のヘンリー・テツヲ・オサノに依頼して米国産パインアップル・ジュースを買付け、無為替名下に本邦宛輸出させ、その代金は本邦に於て円払することとし法定の除外事由もないのに
(1) 昭和三一年五月上旬頃東京都千代田区丸の内一丁目一〇番地所在ホテルテートに於て非居住者たるヘンリー・テツヲ・オサノに対し、パインアツプルジュース千ケース(一ケース二四罐入以下同様)の買付代金三一五〇弗に対する弁済として約一二六万円を支払い
(2) 同年六月中旬頃右同所に於て非居住者たるヘンリー・テツヲ・オサノに対しパインアップルジュース五〇〇ケースの買付代金一五七五弗に対する弁済として約六三万円を支払い
以て夫々非居住者に対する支払をし
第三、被告人谷川進三は、昭和三一年五月四日頃から同年六月一二日頃迄の間三回に亘り横浜市所在横浜税関に対し、その頃米国から京都府遺族会宛に寄贈された形式の下に到着していた米国産パインアップルジュース外三種類の缶詰合計二五〇〇ケースの輸入申告をした上、その輸入許可前に右二五〇〇ケースの引取の承認を受け、これをシゲオ・カトウ及びヘンリー・シモジマ等と他に売却処分したにも拘らず、同年一〇月上旬頃同税関に対し右二五〇〇ケース全部を京都府遺族会外全国遺族会に、救じゆつ品として無償配布した旨内容虚偽の証明文書を提出し、同税関係員をして其の旨誤信させ、因て右不正行為により同年同月二四日頃関税定率法第一五条第一項第三号に基き右二五〇〇ケースに対する関税合計八六万五五九〇円の免税輸入許可をなさしめ右関税の支払を免れたもの
である。
(証拠の標目)(略)
(弁護人等の主張に対する判断)
先づ判示第一の事実についてヘンリー・シモジマの弁護人加藤真、山岸勝満の弁護人小松不二雄、大橋治の弁護人辻市右衛門から無罪であると云う趣旨の主張をして居り、殊に小松弁護人の論旨は詳細を極め、部分的に見ると、論理の運びに於て極めて徹底的である為に、無罪の主張が一応尤もな様な感を生ぜしめる点があるから、同弁護人の主張を検討しつつ当裁判所の見解を明らかにし度い。
扨当裁判所が小松弁護人の主張の全体を通覧して感じることは、その所論が極めて分析的であつて而もその論理の運び方が徹底的である為に、全体としては、所謂「木を見て森を見ない」結果に陥入つているのではないかと云う事である。
本件の実体は、前掲各証拠を綜合すると、結局山岸、大橋が乾ブドウ、乾アンズをアメリカから輸入して利益を得ようとしたが、正規の輸入が困難な為に、所謂寄贈物資について無為替輸入の許可を得た上、乾ブドウ、乾アンズをアメリカで買付けてこれを寄贈物資の一部である様に仮装して輸入通関せしめたことにあるのであつて、その主要部分は飽くまでも乾ブドウ、乾アンズのアメリカに於ける買付輸入にあり而もそれが正規の輸入の方法に依つていないことにあるのである。
正規の輸入の為には外国為替管理竝に外国貿易管理制度の下に於ては、一定の手続を踏んで輸入の承認を受けなければならないことは周知の通りである。即ち輸入貿易管理令第四条に依れば「貨物を輸入しようとする者は、通商産業省令で定める手続に従い、外国為替公認銀行に申請書を提出して、輸入の承認を受けなければならない。但し、第八条第一項の規定による承認を受けている場合は、この限りでない」と規定せられているので、所謂無償貨物の輸入、円貨決済の輸入、若くは委託加工貿易契約による輸入について通産大臣の承認を受けた場合を除き、其の他の場合には、通商産業省令で定める手続に従い外国為替公認銀行の承認を受けなければならないのであつて、而も当該貨物の輸入について、同令第九条第一項の外貨資金の割当を受けることを要する場合においては、その割当を受けており又はその割当を受けた者から輸入の委託を受け、かつ同項ただし書の規定により通商産業大臣が定める場合に該当し、若しくは同項ただし書の許可を受けている場合でなければ銀行は輸入の承認をしてはならないことになつているわけである。
この様に規定したのは、つまり国家的見地から、輸入品目や輸入数量を規正することに依り、国際収支の均衡をはかり、且つ外貨を有効適切な方面に利用せんとしているものと云うことが出来るであろう。前記無償貨物の輸入及び円貨決済の輸入については、直接外貨との交渉がない為に通産大臣の承認のみに委せられているが、これは夫々特殊な関係である為に外国為替管理の見地からは別格の取扱をしているものと解せられる。
ところで判示第一の場合は、都社協に依り無為替輸入の申請が為され、通産大臣の承認を得ているけれども、それは飽くまでハワイのヘンリー・Tオサノがハワイの金光教信者から集めて都社協に寄贈せんとした中古衣料、ミルク、果物一〇〇〇ケースであつて、山岸や大橋がアメリカで買付けて輸入せんとした乾ブドウ、乾アンズでないことは明瞭であるし、又弁護人は山岸や大橋は円貨でアメリカ産の乾ブドウ、乾アンズを内地で買付けんとしたに過ぎない様に主張するけれども、その趣旨は前記法文に所謂「円貨決済貨物の輸入」として通産大臣の承認(尚此の場合は大蔵大臣の同意を要する(輸入貿易管理令第一二条第二項参照)を得ていることを主張する趣旨でないことも明瞭であるから、結局判示第一の場合は原則通り正規の輸入承認を要する場合であることは言を俟たないところである。
然るに山岸、大橋等は、乾ブドウ、乾アンズの輸入が正規の手続に依るときは容易に承認せられない為に、前認定の様に寄贈物資の無為替輸入に便乗し、その一部の様に仮装して輸入せんとしたものであり、アメリカに於ける乾ブドウ、乾アンズの取得は専らヘンリー・シモジマに於てその知人を介して行うことになつたものである。
以上のことを先づ頭に置いて本件の法律問題を考えるのでなければ、事件の実体は把握出来ないのであつて、これが外国為替及び外国貿易管理法第二八条第七〇条第九号の構成要件を正解する為の基本的な前提条件である。
法第二八条は「この法律の他の規定又は政令で定める場合を除いては、何人も、外国にある者に対する支払若しくは利益の提供又は外国にある財産の取得の代償として又はこれらに関連して、本邦において、居住者に対して又は居住者のために支払をしてはならない」と規定しているが、この規定の趣旨は、外国に於て金銭、サービスその他財産の給付があり、これの反対給付が、本邦に於て居住者に対する支払という形で行われる場合、これを規制の対象としようとするものであることは、全文を虚心坦懐に読めば理解し得るところである。
而して本件第一の場合乾ブドウ、乾アンズがアメリカ産であることは原産地証明に依り明瞭でありその日本到着前に於ては前記条文に所謂「外国にある財産」に該当することは明らかであるし、シモジマのロイ・オクノに対する合計一〇八八万円の支払が「右乾ブドウ、乾アンズの取得に関連して」なされたことは山岸、大橋、シモジマの各検察官に対する供述調書及び同人等の当公廷の供述に依つても明らかであるから、前記条文の構成要件を充足するものと云わなければならない。
小松弁護人は円貨の支払の相手方はロイ・オクノではないと主張し、弁護人が提出した昭和三三年証第二八八号の(1)(2)のロイ・オクノの手紙と称するものの中には確にロイ・オクノの自分は此の取引に関係がない旨の記載があり、又弁護人の提出した同人の宣誓供述書中にも同趣旨の記載があるけれどもこれを其の儘信用し得るものであるかは甚しく疑問であり、結局シモジマの供述といづれが真実かと云うことが結局本件の一つの重点を為すものであるところ、シモジマは自らロイ・オクノに前記金員を支払つたと云うことで起訴せられていて、若し真実ロイ・オクノに金員を支払つた事実がないならばこれを否定することに依り、ロイ・オクノの取調が困難な本件に於ては自らの罪責を免れ得る地位にあるに拘らず、敢てこれを認めていることから見ても、シモジマの供述を信用するのが相当であると考える。而してこの支払については、直接の補強証拠はないけれども、凡そ憲法又は刑事訴訟法が自白の外に補強証拠を要するとするのは、自白のみに頼る時は全く事実に反する様な認定が為される危険がある為であつて、従つて構成要件該当事実のあらゆる部分について補強証拠を要するのではなくて、構成要件該当事実があつたことを裏付けるに足る様な情況を示す補強証拠さえあればよいのであるから、前記の場合ロイ・オクノが支払を受けたこと自体の補強証拠がなくても、結局乾ブドウ、乾アンズの輸入があつたと云う客観的事実に依りその輸入の為の支払が為されたと云うことの補強証拠としては足るものであり、その支払の相手方がロイ・オクノであつて他の人でないことについてまでの補強証拠は必要がないものと考える。(弁護人は統制額違反の売買の例をあげて取引の相手方についての補強証拠が必要であると云うけれども、右の場合は取引の相手方を明確にすることが最もその取引のあつたことの確実性を示すものであるから通常取引の相手方についての取調を以て自白の補強をするのであるが、本件の場合は外国にある財産の取得と関連して支払が為されたことの確実性を示す最も有力な資料はその財産の取得即ち輸入の事実であるから右財産即ち乾ブドウ、乾アンズが輸入された事実自体が最も有効な補強証拠であり、それについて支払の相手方が甲なりや乙なりやは云わば二次的な重要性を有するものに過ぎないからその点についての補強証拠までも必要とするものではないのである)尚同弁護人はロイ・オクノに円貨を渡したことが事実であるとしても、ロイ・オクノは本件犯罪の共犯者であるから共犯者間の円貨の授受であつて、山岸、大橋からシモジマに対する授受と同様犯罪を構成しないものであると主張するけれども、ロイ・オクノはアメリカに於て乾ブドウ、乾アンズの取得に協力すべき立場にあり従つて日本国内に於てこれを輸入せんとする立場に立つ山岸、大橋、シモジマ等の相手方であつて、若し斯様な者まで外国為替及び外国貿易管理法違反の共犯となるものとすればその間の支払が総て処罰し得ないこととなり管理法の目的は全く達せられなくなることから考えても右弁護人の主張が到底採用し得ないものであることは明瞭である。
而も法第二八条第七〇条第九号は支払をした者を処罰することを規定しているに止まり支払を受けた居住者を処罰していないのであるからロイ・オクノについて通常の共犯理論又は必要的共犯の理論に依り律し得ないのであり従つて又共犯者間の金銭の授受と目し得ないことも亦当然であろう。
尚小松弁護人はロイ・オクノに対する円貨の引渡は単なる占有権の移転であり所有権の移転でないから支払にならないと主張するけれども、買手側の山岸、大橋等にして見れば、要するにアメリカに於て乾ブドウ、乾アンズを買付けて発送してくれることを依頼してロイ・オクノに対し円貨の処分権を完全に移転したものであつて、これに基きロイ・オクノが最終的に円貨を自己の所有とするか又は更に他に移転するかはロイ・オクノの自由に属するものと解せられるから右は弁護人の主張する意味では円貨の所有権の移転に該当し、従つてロイ・オクノに対する支払と云うに妨げないものと云うべきである。
尚シモジマがロイ・オクノに渡した金額については関係者の供述に小松弁護人主張の様な喰い違いがあるけれども、大橋は千八十八万円をシモジマに渡したと云い(シモジマは九百万円位と云う)而もシモジマは手数料として二十万円別に貰つた外受取つた金は其の儘ロイ・オクノに渡したと云うのであるから千八十八万円はロイ・オクノに支払われたものと認定する外ないのであつて、この点についてはシモジマの九百万円を渡したと云う供述を信用しないわけであるけれども、シモジマの供述する九百万円と大橋の供述する千八十八万円を比較すると大橋の供述の方が客観的な理由付を持つているだけ信用度が強く、シモジマの供述は単なる算数上の計算に拠つているのみであつて其の根拠付けが薄弱であるから大橋の供述に依るのが相当であると認める。シモジマの供述の一部を信用し他の部分を信用しないと云うことは一見不合理に見えるけれども斯様なことは世間でも屡々あることであつて訴訟法上も決して実験則に反することではない。
尚小松弁護人は山岸は単にシモジマから商品を買うつもりで居たのであるから罪を犯す意思はなかつたと主張するけれども既に前に述べた様に山岸、大橋等はアメリカ産の乾ブドウ、乾アンズを輸入して利益を得ようとしたが正規の輸入がむづかしい為に寄贈物資の無為替輸入に便乗してその一部に仮装して輸入しその財産権取得に関連して日本円をシモジマと共謀してロイ・オクノに支払つたことは明瞭であるから、単に日本国内でアメリカ産の乾ブドウ、乾アンズを日本円で買うと云つた関係でないこと勿論であり(若し弁護人主張の様な意図であつたとしたら山岸、大橋等が都社協を利用して都社会協名義で通産省から無為替輸入の承認を得ることに協力する筈がないのであり、殊に山岸がヘンリー・Tオサノに交渉して物資寄贈の申出を獲得する様な準備的行為をする筈がないのである)従つて山岸に罪を犯す意思がなかつたと云うことは出来ないから弁護人の主張は採用しない。
尚小松弁護人は山岸等が千八十八万円をロイ・オクノに支払つた時に於てアメリカにある乾ブドウ、乾アンズは特定していなければアメリカにある財産権の取得に関連して日本円の支払が為されたと云うを得ないと主張するけれども、本件に於ては乾ブドウ等の横浜到着日時は三月二八日頃で通関は四月一六日、日本円の支払の最終日は四月二日であるところ、通関前は仮令横浜に到着していても外国にある財産権と云うに妨げないし、外国にある財産権は特定し得るものであれば足り必ずしも日本円の支払の時に於て特定していることは必要としない(尤も本件の場合はインボイスや品物の日本到着日時から考えて支払当時は特定していたと認められる)と解すべきものであり又その取得の法律的な原因が民法所定の如何なる典型に属するやの如きことは法二八条の後段の関連支払の構成要件に属しないからこれを明らかにする必要もないものと云わねばならない。さればこの点に関する弁護人の主張も採用しない。
次に判示第二の事実については林田弁護人から、本件は外国為替及び外国貿易管理法第二七条に所謂法定の除外事由ある場合に該当するから、犯罪を構成しないとの主張があつたのでその点について当裁判所の見解を略説する。林田弁護人は、輸入貿易管理令第八条第一項第一号及び第一号の二は夫々「代金の全部について決済を要しない貨物を輸入しようとするとき」又は「その代金を内国支払手段により決済する貨物を輸入しようとするとき(代金の一部の決済のため対外支払手段を購入する場合を除く)」には通商産業大臣に申請して輸入の承認を受けなければならないと規定しており、これが所謂無為替輸入の承認の場合であるが、この無為替輸入の承認のあつた場合には、外国為替管理令第一一条第一項により法第二七条の制限又は禁止が解除せられ支払をすることが出来るのであつてこの場合は法第二七条の法定の除外事由にあたると主張するけれども、被告人等は所謂寄贈物資として輸入貿易管理令第八条第一項第一号の趣旨で通商産業大臣の承認を得たものであつて同条同項第一号の二の趣旨の承認を得たものではないから、仮令同じフォームCの申請書に依り承認を得ていても承認の趣旨は全く異つていて彼此流用することが出来ないことは勿論であり(何故ならば一号は全く決済を要しない場合であるのに反し、後者は内国支払手段による決済を要するのであつて、後者の方法による輸入は外貨を要する輸入と密接な関係にあるから、これを承認するか否かは別途の慎重な考慮を要するからである。さればこそ輸入貿易管理令第一二条に依れば通産大臣は予め大蔵大臣の同意を得ることを要することになつている。)通産大臣が内国支払手段による決済を承認していない本件に於ては外国為替管理令第一一条に依る支払の制限及び禁止の免除は為されていないものと解すべきであるから林田弁護人の右の主張は採用し難い。
林田弁護人は仮に右の様な輸入貿易管理令第八条第一項第一号と第一号の二の流用が許されないとしても、被告人等は許されるものと信じて本件の支払をしたものであるから事実の錯誤に依り犯意を阻却すると主張するけれども、寄贈物資の無為替輸入の申請をした被告人等が内国支払手段に依る決済の承認を得た場合と同様に内国支払手段に依る決済は差支ないと信じていたと云う様なことは到底信じ難い(若し左様に考えていたとしたらわざわざ寄贈物資の形式を借りることなく直接令第八条第一項第一号の二の申請をしていたであろう)のであつて事実の錯誤があつたとは認められないからこの点の弁護人の主張も亦採用し難い。
尚林田弁護人は仮に以上の点が理由なしとするも、被告人シゲオ・カトウは初犯であつて法律知識がないので判示第二が法に触れることを知らなかつたと、主張するけれども、被告人等は、正規の手続に依つてはパインアップルジュース等の輸入が容易でない為に、寄贈物資に仮装して無為替輸入の許可を得て前記品物を輸入したものであつてその行為自体から違法の認識はあつたものと認められるし、法の不知は犯意の成立を阻却しないから弁護人の主張は採用出来ない。
(法令の適用)
法律に照すに判示所為中第一は外国為替及び外国貿易管理法第二八条第七〇条第九号刑法第六〇条に、第二は外国為替及び外国貿易管理法第二七条第一項第二号前段第七〇条第八号刑法第六〇条に、第三は関税法第一一〇条第一項第一号前段に各該当するところいづれも懲役刑及び罰金刑を併科することとし尚ヘンリー・シモジマ、シゲオ・カトウの所為は刑法第四五条前段の併合罪の関係にあるので同法第四七条第四八条第一〇条を適用して犯情重い第一(シモジマの場合)又は第二の(1)(カトウの場合)の罪の懲役刑に併合罪加重した刑期範囲内又罰金の合算額の範囲内で被告人ヘンリイ・シモジマを懲役一年及び罰金五〇万円に、同山岸勝満を懲役八月及び罰金三〇万円に、同大橋治を懲役六月及び罰金三〇万円に、同シゲオ・カトウを懲役六月及び罰金三〇万円に、同谷川進三を懲役八月及び罰金五〇万円に処し、但し懲役刑についてはいずれも刑法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し被告人等が右罰金を完納することが出来ない時は同法第一八条を適用して金二千円を一日に換算した期間労役場に留置し、尚判示第三の犯罪に係る貨物は没収することが出来ないので関税法第一一八条第二項に則り犯罪が行われた時の価格に相当する金額を谷川進三から追徴すべきものであるところ形式上は判示第三の犯罪は谷川の単独犯となつているが前掲各証拠を綜合すれば明らかな様に判示第二と第三は密接に関連していて、不正手段に依り通関した品物の中大部分はヘンリー・シモジマ及びシゲオ・カトウが売却して居り谷川はパインアップルジュース一五〇〇ケース中四〇〇ケースの分配を受けて居るに過ぎないから追徴額を算定するについても谷川が取得した部分を基準にして考えるのが立法趣旨に副うものと認め按分比例に依り算出した九九万二〇〇〇円を谷川から追徴し訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項を適用して主文の通り負担させることにする。尚通訳費用は刑訴第一八一条第一項但書を適用して免除する。
よつて主文の通り判決する。
(裁判官 態谷弘)